LGBTQ洋書読書会とか

新設Cチーム企画主催者が、元々は「リバティおおさかを応援する!」というブログでやってましたが、引っ越ししまして、最近ではLGBTQの洋書読書会やその他の情報をごった煮状態で掲載していますv

WS報告「LGBTQ団体の警察へのトレーニング」

「LGBTQ団体の警察へのトレーニング」
1/20(金)3:00-4:30

【プログラムから概要】
参加者は、LGBTQの文化と用語を伝えるトレーニングために、参加者の団体または組織と共に、警官やスーパーバイザーにどう接触し、法的処置を促すための効果的な戦略を学ぶことができます。なぜこのトレーニングを受ける必要があるのかという説得力のある理由を警官に提示することも含まれます。基本的なトレーニングの枠組みと内容が説明されます。ワークショップの間に、参加者は自分たち専用の実装行動計画を作ることも可能でしょう。
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小さい部屋で30人程度の小さな分科会。すごく面白かった!まず、リズさんが超ダイクでかっこいい。百戦錬磨、研修のプロって感じの明快な話し方。
まず、基本的な姿勢から説明された。警官の教育は、軍隊が基本になっている。しかし、警官が扱う問題は軍隊モデルの訓練では取り扱えないということ。なぜなら市井の人たちは軍隊に暮らしてないし、アメリカの市民生活は戦争状態じゃないから。警官は仕事柄、取り扱う問題の性質上、本来はソーシャルワークとか、刑事司法的な視点や知識が必要なんだけど、ない。脱軍隊化が必要。

こちらで主催者が作ったトレーニング用のビデオが見れます。すごくわかりやすくていい!
トランス女性が運転している車を止めて質問する例。トランス女性が女性トイレを使用しているのを見た人が警察に通報した例。トランス女性がヘイトクライムで暴力にあった例。具体的な事例でどのように対応するのがプロとしての警察官かをわかりやすく説明している。このビデオがとても効果があるのは、リアルな警察官のおっさんが説明しているから、だそうだ。これがLGBTQ当事者が説明していたら聞く耳を持ってもらえないからだ。

www.youtube.com

まず必要なのは、生まれた時に割り当てられた性別と、性的指向と、性自認をしっかり分けて理解させること。次に、敬意を持ってプロフェッショナルとしての対応をすること。トランスコミュニティに積極的につながりを持とうとすること。●●してはないけないではなく、●●しよう、というポジティブな方法を提示すること。がポイントだったと思う。本人が希望する第三人称を聞くのは基本。(She/He/Theyなど)
ビデオの後にビデオの良いところと悪いところを参加者が挙手で言い合ったんだけれど、リズさんが発言者にビーズの首飾り(よくCNE(カナダ・ナショナル・エキシビジョン)のパレードで投げ与えられてるやつ)をなげて渡してたのが何かよかった。良いところは、非常に具体的。やるべきことが明快で理解しやすい。など。悪いところは、トランス女性しか出てこない。とても性別二元的で、見た目で性別がわかりにくいようなGNC(従来のジェンダーに従わない人)の人が出てない。有色人種人が少ない。導入部分でプレゼンターがLGBTQへのからかいを肯定しているように見える。など。これについてはリズさんは話しに引き込む方法として共感を得るために戦略的に用いたと言っていた。なるほどね。

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【あなたが言うこと】LGBTQコミュニティに対して適切で支援的なコミュニケーションは、警察を助け、下記のことを増進させ、向上させます。
A、犯罪の通報。コミュニティの情報と懸念を共有。敵対心の鎮静化。衝突回避。暴力の減少。被害者との協力関係。加害者の問題解決。公共の安全。警官への攻撃の減少。
B、偏見なしのコミュニケーションは、「私たち対奴ら」という対立や誤解を終わらせるのに役立つ。
C、全国の警察はこのLGBTQ研修を利用できるし、実際に利用することでLGBTコミュニティとの協力関係の強化に役立てている。
D、研修を受けることは、職業的専門性を高めることになる。
E、個人的な偏見を手放すことは、成功の第一歩である。
F、尊重、礼儀正しさ、丁寧さは信頼と安全を促進させ、サービスを強化する。
G、参加者は、市民を平等に扱うのにトレーニングは必要ないと感じるかもしれない、しかし。。。
H、LGBTQの人/問題について学ぶことは、理解をより深め、市民と訪問者の命の安全性と平等性を保障することに効果的であり、プロ意識を向上させる。したがって警察を強くすることになる。

 

そもそもこの研修がなぜ必要なのか、明確にしておく必要がある。トランス嫌悪によるヘイトクライムで殺されるトランスジェンダーが多いことはもちろん、トランスの1/4人が犯罪に巻き込まれたことがあるほどリスクの高いグループであることや、トランス女性というだけで警察官から嫌がらせを受けたことがある人も多くいることも伝える。

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【LGBTQ研修の内容】
●多様性のトレーニングは罰ではないことを断言しておこう。
●職業的専門性と尊重は犯罪被害者、目撃者、経営者、コミュニティメンバーそして加害者との相互作用を容易にすることを強調しよう。
●LGBTQコミュニティのリーダーたちが協力可能であることを確認しよう。

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【地方、州、連邦法】
A、差別禁止法---地方と州法は何か?
B、連邦、州、地方のヘイトクライム
C、ハラスメント条例---地方条例があるか?
D、ドメスティック・バイオレンス、配偶者パートナーからの虐待
E、セクシュアルハラスメント---性別に関係なくあらゆる管轄で違法
F、PREA(Prison Rape Elimination Act(刑務所レイプ排除法))---警察に関連している
G、ホルモン投与などトランスジェンダーの人々が必要とする医療を与えないことは、おそらく違法である
H、抗議者を規制する法律

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【PREA(刑務所レイプ排除法)が定めていること】
職員は、性器の状態を確定するためだけの目的で、トランスジェンダーまたはインターセックスの受刑者/犯罪者を調査したり身体的に検査したりしない。もし、受刑者/犯罪者の性器の状態が未確定な場合、医療記録を参照することによって、あるいは医療従事者によってプライバシーが守られた状態で行われた広範囲にわたる医療検査情報によって、決定されるだろう。


これと同時に大事なことは、研修は罰ではないということ。警官と言う職業人として知っておかなければならないのだ、ということ。ここで州や地方レベルで、差別法、ハラスメント防止法、刑務所法などがあれば提示するのが有効だ。警官の職務上関係ないとは言えない。(関連法について、そうした教育を警官が受けてないのが驚きだけど。)刑務所法には、トランスジェンダーのホルモン投与について、投獄中も保障されていると明記されてたり、勝手に身体検査をしてはいけない。またHIV陽性者の返り血をあびたら感染するとか本気で思ってたり、HIVについても正しい知識を持っていないので一通り説明の必要がある。あとジェンダーレストイレの必要性や、身分証明書の性別変更についての説明も。また、LGBTQのムーブメントが警察との軋轢からはじまったという歴史を紹介するのもよい。

 

この団体、何百もの機関にLGBTQについての講演やトレーニングを行っていて、おもしろかったのは、教員やソーシャルワーカーに効果があるLGBTQの写真資料(LGBTQの俳優とか有名人をちりばめたような)を使って、どんな人たちなのか説明するみたいなのは、警官には全く効果がないそうだ。むしろ、ただたくさんの顔をずらりと並べて、誰が女性トイレ、男性トイレに入ってもいいか?という問いの方が効果があるとのこと。(答えは「外見で決められない。」)つまり、警官へのトレーニングは、他の学校や企業相手などとは違うということ。やじがすごい。はじめようとしたとたん「ゲイに教えてもらうことなんかねえよ!」とかブーイングが止まらないなどなど。一緒にトレーニングに行ったリズさんの同僚の女性が帰り道で泣きじゃくり、もう二度と警察への研修は行きたくないと言うぐらい手強い、とのこと。LGBTQにからめて異性愛者や人種の特権の話をしようとすると、「白人であることに罪悪感を持たせようってのか!」と罵倒されるなど。
そういうこともあり、研修には必ず4人で行くようにしているらしい。うん、4人いたらどうにかなる、かも。実際にトランス当事者などを連れて行き、直接コミュニケーションしてもらうのがやはり効果的なようだ。一度知り合いになってみたら、次から似たような人に会った時の対応は明らかに変わるだろう。また、トランスの人は警官から嫌な目にあっているので、何かあった時に警察に協力するのをためらいがち。そうした悪い循環を起こさないためにも、日ごろからLGBTQコミュニティと協力的な関係を作る努力を、警察がするべきだ。ロールプレイなどで実践的な対応を知り、その感想を警官同士で共有してもらい学んだ実感にし、コミュニティセンターなどの連絡先をメモしてもらう。白人の率が高い警官の研修では、白人の人は自分の白人特権を使うとよいが、ロールプレイや事例を説明する場合は、必ず有色人種を登場させること、と念を押していた。

会場には、LGBTQで警察官の人、セキュリティ会社などで警備員に研修をしようとしている人、LGBTQの大学サークルで大学内の警官に研修をしたい人などなど。大学警察が酷いので該当の人たちを辞めさせるとかどうにかしたいという参加者からの質疑の中で、リズさんからは大学関係の警官や警備の組合はすごく力があるので辞めさせるのは無理だと思う、と回答。その手の仕事は年金も福利厚生もいいのでなかなか辞める人はいないそうだ。

実際に自分の州で警察研修をはじめたい場合、警察本部長や副本部長に連絡するのが一番早いらしい。その他だと、既に人種などの多様性について取り組みをしたことがある警察関連の部署、警察関連の公務員、州議員、市長、市議会議員、人権関係の委員会、教会の組織、進んだ教会、地元の進んだ大学/専門学校、企業家、地元の多様性のための組織。これらに連絡をして、警察での研修を実現できるコネクションを探し出し、実行まで持っていくのだそうだ。また研修に参加したり、協力してくれるLGBTQグループのリーダーやボランティア探しも重要だ。

最後に、今回の発表で使った資料などは後日ウェブ上で公開されるそうで、連絡先を残して置いたらメールをくれるというのでアドレスをリズさんに渡しておいた。
下記は研修を実施する際の段階的な説明。

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【調整ーステップ1】
●研修の第二部は、スライドを見せるだけの説明よりも、警官個人とっておそらくより効果的だ。
●この活動的なトレーニングには、警官と交流する意思のあるLGBTQ当事者のボランティアが必要となる。警官たちはLGBTの人たちとのコミュニケーションを練習することができる。
●やるべきことは2つ。
1)LGBTの人と適切な交流の仕方を学ばせる。
2)実際の個人的なつながりの結果として、協力関係作りをはじめる。

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【調整ーステップ2】
●LGBTQコミュニティのリーダーたちに、この研修に参加するように呼びかけるようにしよう。
●組織の代表者、実業家、活動家、聖職者、その他の要人たちを巻き込もう。
●この研修は単なる研修ではなく、警察との協力関係づくりであること忘れないようにしよう。これにより、警官は特定のLGBTのリーダーたちに連絡を取りやすくなり、LGBTのリーダーたちも特定の警官に連絡をしやすくなるのだ。

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【調整ーステップ3】
●いくつか、トレーニングビデオと似たようなシナリオを作っておこう。LGBTのボランティアにインタビューしたり、その他のコミュニティメンバーが経験した警官とのやり取りを参考にしよう。
LGBTであることが警察への通報の1つの要因である場合、もっとも起こり得る2つのケースは、1つ目はヘイトクラム/嫌がらせ、2つ目はドメスティックバイオレンスだ。他の考えられ得るシナリオも練習してみよう。

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【調整ーステップ4】
●研修にいる各警官が「敬意のある対応の向上」に参加していることを確認しよう。LGBTのボランティアは「敬意ある対応」をトレーニングの中で経験しているはずであることも確認しよう。そうすることで、全ての人が用語、情報、目的に自覚的になれる。
●研修のリーダーは、この練習のゴールを明示するために、一つのシナリオを演じて模範を示そう。
●参加者は自己紹介をする。
●3、4人のグループに分かれ、シナリオを一通り読んでから、どの役を演じるか決める。敬意のある言葉と丁寧なマナーで、適切なやり取りを練習する。

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【調整ーステップ5】
●大きなグループに戻る。
●やり取りで何が起こったかを共有する。
●問題または解決するため、または上がってきた問いを解明するため、質問する。

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【調整ーステップ6】
●連絡先を共有する。
●コミュニティで何かあった時、連絡先となることを引き受ける。


日本でトランスの人が警察から嫌がらせに合うことが多い、というのはあまり聞いたことがないし、なかった。北アメリカの状況と日本は違っているのは当然だし、また、私がそういう生活圏で生活していたからなのかもしれない。
例えば、こちらではトランスのセックスワーカーや団体が顕在化していて、LGBTQコミュニティで頻繁に声を聞くしイベントも見かける。警官と口論しているトランス女性っぽい人を道端で見かけることもある。ストリートで働いているセックスワーカーが職質などのターゲットになりやすいので、警察との接触率もあがってくる。私が日本にいたころは、もちろん活動家の人たちはいるが、北米ほどの声があがってなかったように思う。日本のLGBTQコミュニティ/運動は、ゲイやニューハーフなどセックス産業に従事している層を含んでないというか、分離してるというか、コミュニティの一部となっている感じがあまりしない。こちらのトランス女性の友達が「エスコート(売春)なんてみーんなやってるわよ」と言っていて、実際その多さには驚いた。トランス女性の中のセックスワーク従事率が日本と北アメリカではだいぶ異なるのかもしれない。でも日本でも所変わればそうした話をよく聞くようになるかもしれないし、日本の場合は特に当事者が声をあげない傾向があるので、調べてみたらもしかすると色々出てくるかもしれない。
北米のLGBTQムーブメントはそもそも警察からの弾圧への抵抗からはじまってるので、日本とは警察との歴史的な経緯が異なるため、警察に従順な日本でこの研修をそのまま輸入することはできないし、効果がないかもしれない。しかし、当事者の安全と人権のために、権力側とどのように実務的な協力関係を作っていけるかは参考になると思う。また、今激しさを増している在日差別や外国人差別についても、調整対策として参考になるかもしれない。にしても、これらのベースとなり、根拠となる国レベルの法律が日本にないのがネックだ。


■主催者団体 Bradbury Sullivan LGBT Community Center
■発表者のリズさんは著書もたくさん